自転車保険加入の義務化に伴い、自転車保険に新たに加入しようか悩んでいる人も多いのではないでしょうか。しかし、もし加入中の火災保険で「個人賠償責任補償特約」を付帯している場合、新たに自転車保険に入らなくても同様の補償が受けられる可能性があります。
今回の記事では自転車保険への加入が義務化された背景について簡単に触れたあと、火災保険の「個人賠償責任補償特約」の中身について詳しく解説します。
この記事の監修者
キムラミキ
不動産投資のプロ
ファイナンシャルプランナー(AFP)宅地建物取引士 社会福祉士 キャリアコンサルタント
日本社会事業大学で社会福祉を学んだ後、外資系保険会社、マンションディベロッパーに在籍後、
FPとして独立。現在は、株式会社ラフデッサン 代表取締役として、個人向けライフプラン相談、
中小企業の顧問業務をお受けするほか、コラム執筆、セミナー講師、
山陰放送ラジオパーソナリティとしても活躍中。
http://www.laugh-dessin.com/
自転車保険加入が義務化になった背景
自転車保険はもともと、レンタルサービス業を中心に義務付けられてきました。しかし、現在では全国の8割以上の自治体で自転車保険の義務化および加入の努力義務を取り入れています。自転車保険加入が義務化された背景のひとつとして、自転車事故による高額賠償金の請求が挙げられるでしょう。被害の大きさによって賠償金の金額は異なりますが、被害者が死亡または大きな後遺症が残った場合、1億円近い賠償金の支払いが命じられたケースも見受けられます。
自転車は手軽に利用できる一方、接触事故などを起こしやすい乗り物のひとつです。もしもの事態が生じたときに自分だけでなく相手を守るためにも、自転車事故への備えを講じておくことは欠かせないでしょう。
自転車事故によって高額賠償となった事例
ここでは、自転車事故によって高額賠償となった事例について、5つ取り上げてみました。
加害事故例①:9,521万円
男子小学生(11歳)が夜間、帰宅途中に自転車で走行していたところ、歩道と車道の区別のない道路で歩行中の女性(62歳)と正面衝突する事案が発生したもの。女性は頭蓋骨骨折等の損害を負ったほか、意識が戻らない状態となった。
(神戸地方裁判所、2013年7月4日判決)
加害事故例②:9,330万円
男子高校生が夜間、イヤホンで音楽を聴きながらライトをつけずに自転車を運転していたところ、パトカーの追跡を受けて逃走。職務質問中の警察官(25歳)と衝突し、警察官は頭蓋骨骨折等で約2ヶ月後に死亡した。
(高松高等裁判所、2020年7月22日判決)
加害事故例③:9,266万円
男子高校生が昼間、自転車横断帯のかなり手前の歩道から車道を斜めに横断。対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(24歳)と衝突した。男性会社員には重大な障害(言語機能の喪失等)が残ってしまった。
(東京地方裁判所、2008年6月5日判決)
加害事故例④:6,779万円
男性が夕方、ペットボトルを片手に持ったままスピードを落とさずに下り坂を走行して交差点に進入。横断歩道を歩いていた主婦(38歳)と衝突し、主婦は脳挫傷によって3日後に死亡した。
(東京地方裁判所、2003年9月30日判決)
加害事故例⑤:5,438万円
男性が昼間、信号表示を無視してかなりの速度で交差点に進入。横断歩道を横断していた女性(55歳)と衝突し、女性は頭蓋内損傷等で11日後に死亡した。
(東京地方裁判所、2007年4月11日判決)
火災保険の「個人賠償責任補償特約」とは
火災保険の契約時、「特約」や「オプション」としてメインの保険にさまざまな補償を追加することができます。特約の種類は多岐にわたり、その中の1つが「個人賠償責任補償特約」です。
個人賠償責任特約の概要について、詳しくご説明します。
補償される事故は?
個人賠償責任補償特約では、日常生活で生じた偶然の事故によって他人にケガをさせたり、他人の物に損害を与えたりして法律上の損害賠償責任を負った場合に補償を受けられます。また、この場合の補償対象として被保険者本人はもちろん、その家族も含まれます。保険会社によっては国内だけでなく海外での事故も補償対象となることもあるでしょう。
補償される事故の一例として、以下のようなケースが挙げられます。
・自転車で走行中に通行人にぶつかってケガを負わせた ・自転車を運転中に踏切内で立ち往生し、電車の通行を妨げてしまった ・買い物中に子どもが走って高価な商品を壊してしまった ・水漏れによってマンションの下の階の部屋に被害を与えてしまった |
水漏れで火災保険の適用範囲については以下の記事で詳しく解説をしています。
示談交渉サービスがある場合も
個人賠償責任補償特約の中には示談交渉サービスが付帯しているケースもあります。示談交渉サービスとは、被保険者が事故によって損害賠償責任を負うことになった際、保険会社が被保険者に代わって相手方や相手方の保険会社と交渉を行うサービスのことです。加入前、もしくは加入している個人賠償責任補償に付帯されているかどうか、確認しておくことをおすすめします。
補償されない事例は?
「偶然」に「自らの責任」で「他者に損害を与えた」場合以外は、個人賠償責任保険の補償対象外となります。
例えば、自ら転んでケガをした場合は「他者に損害を与えた」という条件を満たさないため補償対象外となります。その他にも他者が損害を受けたものの自分には責任がない場合は「自らの責任」という条件を満たさないため補償対象外となります。
また、「偶然」にという条件を満たす必要があるため個人賠償責任保険の補償は故意ではなく過失で生じた場合に限定されます。そのため故意に、つまりわざと損害を与えたというケースにおいては、一部の例外を除いて保険金は支給されないことを覚えておきましょう。
自転車の盗難も補償される?
保険会社によっては個人賠償責任補償特約の補償対象に盗難が含まれていることもあります。ただし、盗難は補償の対象外となっているケースも多いため、事前にきちんと確認することをおすすめします。
自転車保険と火災保険の違い
火災保険に付帯できる個人賠償責任補償特約と自転車保険の違いをご説明します。大きな違いは交通事故で自分が負傷あるいは死亡した場合に補償を受けられるか否かです。
自転車保険
自転車保険では相手への損害賠償の補償のほか、自分の身体に対する補償も受けられます。
火災保険
火災保険の個人賠償責任補償特約では相手への損害賠償の補償を受けられますが、自分の身体に対する補償は補償対象外となります。そのため、個人賠償責任補償特約で自身の身体に対する補償を受けたい場合、医療保険や生命保険でのカバーを検討する必要があります。
火災保険の必要性については以下の記事で詳しく解説をしています。
自転車保険に加入する際の注意点
自転車保険への加入を検討している場合、補償内容がすでに加入中の保険と重複しないかどうか確認することが大切です。加入中の火災保険に「個人賠償責任補償特約」が付帯している場合、補償内容が重複している可能性が高いといえます。
また、個人賠償責任補償特約の中には「示談交渉サービス」が付帯している商品も多いため、この機会に付帯しているかどうか確認しておくと安心でしょう。
自身が加入している保険の補償内容を見直そう
自転車事故による損害賠償額が高額になる中、自転車事故への備えは欠かせません。しかし、今回ご説明した通り、既に火災保険で「個人賠償責任補償特約」を付帯している場合、自転車保険の加入によって補償内容が重複してしまう可能性も知っておきましょう。
既加入保険の補償内容を確認した上で、日頃、自転車に乗る機会が多いものの自転車事故への備えがない場合には、自転車保険の加入をおすすめします。